研究紹介

はじめに

 当科では、消化器、肝臓、胆膵疾患の臨床だけでなく、基礎研究も精力的におこなっています。臨床だけでは病気の詳細な分析や、根本となる治療法を開発するのは困難ですが、とくに大学で診療していると、難治性の病気で苦しんでいる患者さんを担当する機会も多くあり、今の医療の限界を考えさせられます。逆に、基礎研究のみでは患者さんが本当に困っていること(ニーズ)の認識さえ難しいと思われます。

 そのため、よく言われますが、“From Bed to Bench, Back to Bed”(臨床のベットサイドで生じた疑問を基礎研究で解明し、その結果を医療へ還元する)をモットーとし、両者をうまく融合するかたちで社会貢献につなげていくのが私たちの目標です。

 またその一環として、研修医の段階から、日々の臨床で遭遇した興味深い症例を徹底的に検討・分析し、症例報告として国際的な医学雑誌への報告も精力的におこなっています。このように、真理の生命科学の探究を通じて総合的な医師としてのレベルアップを図りつつ、つねに世界へ有益な情報を発信することで、最終的には、より多くの患者さんの健康と幸せにつながればと考えています。

研究モデルプラン

 研究を開始するにあたり、モデルプランを示します(下図)。当科に卒後3年目に入局すると、まずは臨床知識・技術をしっかりと身に着けることをお勧めします。一通りの内視鏡やエコー検査ができるようになると、大学院に進学し研究を開始します。卒後8~10年目になると、臨床では各種認定医の所得が終了し、基礎研究では論文作成学位の所得です。このころに興味があれば海外留学を選択することも可能で、帰国後は大学で研究を続けたり、教育に携わったり、開業したりするひともいます。

研究モデルプラン図

 

研究体制

 当科は消化管・肝臓・胆膵と幅広い領域の疾患を扱っているため、領域ごとの研究グループになっています(下記)。それぞれのグループ間で基礎あるいは臨床研究への比重は異なりますが、いずれも研究経験の豊富な医師が若手の指導にあたり、充実した指導体制となっています。各グループ内で日常的にディスカッションをおこない、毎月医局全体でのリサーチカンファレンスで進捗状況の確認やプレゼンテーションの練習をおこなっています。

 研究をしていくと、当然結果の発表として論文作成となりますが、先述の症例報告等で英語論文の練習をしておくと、スムーズに書けることが多いです。もちろん、指導医が英語のチェックから論文の構成までしっかりと手厚い指導を行っています。その結果、英語、和文に関わらず毎年多数の論文発表・症例報告を行っています(下図)。

 

発表論文数(本/年)(2019年は途中まで)

発表論文数図

 

 さらに各自の研究テーマをもとにした厚労省の科学研究費(科研費)も多くの医師が獲得しており(現時点で当科の7人が研究代表者として獲得)、やりたい実験を制限することなく行えています。また、得られた研究の成果は国内外の各種主要学会で発表しており、毎年多くが国際学会にも参加しています(2019年は3人が米国、4人が欧州の消化器病学会に参加)。

 

研究グループとその内容の概要

  • 上部消化管:好酸球性食道炎、バレット食道の成因の検討(臨床研究)
  • 下部消化管:炎症性腸疾患(臨床研究)、過敏性腸症候群の発症メカニズム、制御性B細胞の検討(基礎研究)、腸内細菌解析(基礎・臨床研究)
  • 内視鏡治療・解析:早期食道がん、胃がん、大腸がんの内視鏡治療と合併症予防(臨床研究)、細菌叢解析(基礎・臨床研究)
  • 肝臓:非アルコール性脂肪肝炎の発生メカニズム解析(基礎・臨床研究)
  • 胆膵・化学療法:胆汁や膵液の細菌解析(臨床研究)

臨床研究の様子1

英語・研究留学について

 近年の来日外国人の増加にともない、臨床での医療英語の重要性は飛躍的に増加しています。また基礎研究においても主要な医学情報は英語で発信されており、医学の公用語は英語と言わざるをえません。いずれも論文検索などの情報収集、グローバル化にともなう国際的な研究者とのコミュニケーション、国際学会等でのプレゼンテーションに英語は必須です。当科においても、そのようなニーズに対応するため、英語の習得を推奨しています。具体的には1/週の外国人教師による英会話教室、英文抄読でのプレゼンテーション、海外留学生の受け入れをおこなっています。臨床面においても、海外からの留学生や学生が見学や研修に来た際は、臨床カンファレンスは英語でのディスカッションとなり、医局員全体の英語力向上に取りくんでいます。

 さらに、主に基礎研究の延長で研究留学をするという選択肢がでてきます。上記の英語を習得する最も近道であることは間違いないのですが、研究留学で得られることは、単に英会話能力向上や研究知識・手技の習得だけでなく、何物にも代えがたい貴重なものです。例えば、医師として働きはじめると、病院内の限られた医療関係者以外と新たに交流する機会は少ないのですが、留学を通じて国内外の多くの人と知りあえ、業種や国籍を超えた人脈形成に重要な役割をはたします。当科では、研究留学を行ってきた医師が多数(現時点で6人)おり、留学に関する生の情報が手に入るのと同時に、形成された人脈を通じて、後輩医師を定期的に派遣するパイプラインもあります。

最後に

 臨床の現場では未解決な課題がたくさんありますが、それに気付かない、あるいは考えようともしない医師も多いです。これは若い頃に、基礎的な研究の経験があるかどうかに関連しているような気がします。研究の経験は現場での多角的な視点での観察や解決方法の考案(誰と相談したりどこと協働したらいいか)等、ものごとを科学的に判断し行動するという臨床的にも重要な素質の形成につながるのではないでしょうか。基礎研究は、一見難しそうに思う人も多いですが、やり始めるとどんどんはまっていく魅力的なものです。臨床はひとりの患者さんを救えますが、基礎研究の成果は何百万人を救える可能性だってあるのです。

 基礎研究に興味あるひと、英語が上達したいひと、研究留学してみたいひとは、ぜひお話しを聞きにきてください(研究のこと、アメリカ生活のこと、お金や安全に関して、言葉の壁など、なんでもいいですよ~)。私も基礎研究をつづけていたおかげでノースカロライナ大学に5年間も留学しましたが、今でも本当にいってよかったと思っています。(写真)

臨床研究の様子1