IBD(炎症性腸疾患)グループの紹介
IBD(炎症性腸疾患:クローン病、潰瘍性大腸炎)グループ
IBD(炎症性腸疾患:クローン病、潰瘍性大腸炎)グループでは、下部消化管の良性疾患、特にIBD(炎症性腸疾患)を中心に診療を行っています。IBD患者さんに対して、患者さん中心でなおかつ最高レベルの診療を提供するという大きな目的がありますが、大学病院という性格上、臨床研究や基礎研究を通じてさまざまなデータを発信しております。
下記に、IBDグループの診療・研究の現状について述べました。当診療グループの特徴は、臨床だけではなく基礎研究にも精力的に取り組んでいることです。ほとんどの先生は若いうちに基礎研究を経験していて、留学経験者も多数在籍しており、病態を深く追求しながら多角的な視点での診療・研究を信条としております。
「研修医の先生方へ」では、IBDグループとして目指す方向性、入局した後の具体的な道筋についても述べていますので、ご参照ください。
IBDグループの診療について
IBDグループの診療は、石原教授の下、IBDを中心とした診療と行っております。
当院では、2020年3月時点で約360人(クローン病約120人、潰瘍性大腸炎約240人)のIBD患者さんの診療を行っています。大学病院内にIBDセンターが設置(後述)され、一般病院で対応困難な重症例、難治例を中心に、県内全域や県外から多数のIBD患者の紹介を積極的に受け入れております。IBDの治療は、近年新規薬剤が多数使用可能となり、さらに複雑となってきており、専門医による高度な診療の必要性が増しております。
当センターでは、現在150人以上の患者さんに生物学的製剤が使用されており、免疫調節薬であるタクロリムスによる治療も合計で80人を超えました。また血球成分除去療法にも積極的に取り組んでおります(資料参照)。内科症例の増加に比例してIBDの手術症例も年々増加しており、重症潰瘍性大腸炎の緊急手術をはじめ、現在はほとんどの手術を当院で行っています(資料参照)。
「【2020年7月】 IBDグループ 紹介スライド」(PDF:1.3MB)
IBD診療では、エビデンスを重視するのは当然ですが、さまざまな患者背景を考慮し幅広い視野を持って診療する能力が求められます。IBD専門医の指導の下、IBDに関する一通りの治療を経験することが可能であり、次世代のIBD診療医の育成にも精力的に取り組んでいます。また石原教授は厚労省の「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班のメンバーであり、常にIBD領域における最先端の情報を触れ、それを吸収することが可能な環境となっています。
また、適切な治療を行うためには、適切な腸管炎症の評価が必要不可欠です。特にクローン病患者さんの場合、多数の手術歴のある方、癒着が強い方、狭窄病変を有している方も多く、きめ細やかな配慮の上で検査を行う必要があります。特にダブルバルーン小腸内視鏡検査など患者さんに負担のかかる内視鏡検査は、高度な技術が必要となりますが、上級医が指導しながら、若い先生方にも早い段階からたくさんの検査を経験していただきスキルアップを図っています。また適応症例は多くはありませんが、必要に応じて小腸の狭窄病変に対してもバルーン拡張術を施行しております(資料参照)。また、便中マーカーを取り入れた先進的な診療、カプセル内視鏡を用いた腸管炎症の評価にも取り組んでいます。
IBDグループの研究について
IBDグループの研究は、IBDだけではなく過敏性腸症候群(IBS)に関連したさまざまな臨床的、基礎的な研究を行っております。
臨床研究では、厚労省の「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班に関連した臨床研究にも多数参加しています。当グループで力を入れている研究としては、約10年前から臨床応用を目指した便中カルプロテクチンに関する臨床研究を行っております。本邦においても3年前から潰瘍性大腸炎で保険適応となりましたが、当科ではクローン病に関する検討(資料参照)や、迅速キットを用いた検討を行い、臨床的に意義深い検討を行っています。他にも活動性指標となるバイオマーカーやIBDに合併したIBS様症状に関する検討など、さまざまな臨床研究を継続的に行っています。
基礎研究では、「IBDの病態と制御性B細胞(Breg)との関連」「腸管粘膜透過性の新規評価法の開発」「生体でのアポトーシス細胞の適切な処理と腸管炎症との関連」「TLR9シグナルを介した感染後過敏性腸症候群の病態解析と治療応用」などに関する基礎研究を行っています。研究の詳細については「研究部門の紹介」をご覧ください。なおIBDグループには留学経験者も多数在籍しておりますが、留学を検討している先生方は「研究部門の紹介」に記載されている基礎研究のロードマップをご参照ください。
研修医の先生方へ
石原教授は、日頃から「リサーチマインドを備えた臨床医の育成」を掲げており、IBDグループは一致団結してその実践に取り組んでいます。より良き臨床医を育成する過程では、病態を深く追求しながら診療する姿勢が極めて重要であり、その姿勢がクリニカルクエスチョンを生みリサーチ(臨床・基礎研究)へつながっていくと考えています。それは研究領域のみではなく、実臨床においても新たな発見や副作用の防止にもつながることになり、結果的には患者さんのメリットにつながっていくと思っております。IBDグループでは、病態を深く追求する姿勢を常に意識しながら、若い先生方への指導を行っています。
消化器内科に入局していただいた場合、後期研修医の間は消化器内科医としての幅広い知識や診療能力を身につけるため、消化器内科全般を学んでいただきます。IBDに興味のある先生には、IBD患者さんの担当となる機会も多く持っていただいています。なお、島根県の専門医プログラムの関係もあり、後期研修医の3年間の間に大学病院と一般病院の両方を経験する必要があります。大学病院、一般病院では診療スタイルに違いがありますが、それぞれの病院の特徴に応じて様々なことを学べる環境にあると考えています。なお、県内の拠点病院の消化器内科はほとんど当科の関連病院ですので、安心して送り出せる環境が整っています(1人ポツンと派遣されることはありません)。
当科では、一般的に5-8年目辺りから専門領域を意識した診療・研究へと移行していきます。IBDグループでは、大学院に入学して基礎研究を行うことが多いですが、基礎研究の希望が強くない方は臨床研究を行っていただくなど臨機応変に対応しています。この時期から基礎研究もしくは臨床研究を開始していただくことになりますが、症例報告などの論文を早い段階で書くことにより、客観性や科学的なアプローチ方法を養っていただくように努めています。なお、IBDの基礎研究を行いながら、臨床面ではESDグループ、胆道系グループの仕事を主体としている先生もおられ、本人の希望に沿った形で仕事をすることが可能な状況です(巨大医局ではありませんので希望が通りやすいと思います)。
このような環境で、臨床にも研究にも精通したIBD専門医の育成に励んでおります。
IBDセンターの紹介
IBDセンターは、増加するIBD患者さんに対応するため、消化器内科医師を中心に、消化器外科、精神科などの他科の医師、看護師、薬剤師、栄養士などを含めたチーム医療を実践する目的で、2015年12月に設置されました。医師だけではなく、多職種の専門家が密に連携しながら、患者さんのさまざまな背景を考慮した多面的なサポート体制を目指し、診療を行っております。
毎週水・木・金曜日は「IBDセンター外来」という専門外来を設けており、IBDグループの医師が診療を行っております(月・火曜日は消化器内科外来でIBD患者を受け入れています)。病棟は臓器別に分かれているため、消化器内科と消化器外科が同じ病棟で仕事をしており、常に緊密に連携を取りながら診療を行っております。
当院のIBDセンターの最大の特徴は、「IBDセンター薬剤師外来」を設けていることであり、他院のIBDセンターにはない先進的な取り組みとなっております。IBDの治療の進歩はめざましく、多数の薬剤が使用されておりますが、薬剤指導のニーズに対応するため、薬剤師からの指導を強化しております。新規薬剤を導入する際の薬剤説明、服用状況の確認、服薬向上が主な目的であり、実際に診療における貢献度は極めて大きいと感じています。このように「チーム医療」を重視しながら、患者さん中心でレベルの高いIBD診療を行っております。